前立腺は雄の精液の重要成分を産生する副生殖器で膀胱の後方に位置する臓器です。
前立腺の機能は雄性ホルモンと雌性ホルモンの2つのホルモンによって維持されていますが、加齢と共に性ホルモンのアンバランスが起こると、前立腺の容積が増加し肥大が起こります。これが前立腺肥大です。
前立腺が肥大し内部に空洞の袋が作られた状態を前立腺嚢胞、この嚢胞に細菌感染による炎症が発生し膿が溜まったものが前立腺膿瘍。前立腺に癌が発生したものが前立腺腫瘍と呼び区別します。
前立腺が大きくなると周囲の臓器を圧迫し、排尿障害や排便障害が発生します。
また感染や炎症がおこると疼痛を伴い、歩行異常や下腹部痛を示す場合もあります。
前立腺肥大の治療方法としては精巣摘出術がメインですが、高齢で麻酔が難しい場合には酢酸オサテロン(合成黄体ホルモン剤)という経口前立腺治療薬の投与も行われる事もあります。
前立腺嚢胞や腫瘍の場合には前立腺全摘出術必要になる場合もありますが、かなり難易度の高い手術になります。
今回は前立腺嚢胞と診断された高齢のラブラドールちゃんの症例をご紹介します。
来院の主訴は1週間前から調子が悪く、ぐったりして、オシッコの出が悪いのと立てないという事でした。
写真が初診時の下腹部のレントゲン像です。

黄色と赤の矢印に部分になにか大きな塊が見られます。場所的に膀胱や前立腺が考えられますので念のため膀胱造影をしてみたのですが、その写真が下
圧迫されたような膀胱の後ろに大きな塊が見られ、重度の前立腺肥大が疑われました。
造影時に採取されたオシッコは白濁した膿のような液体で尿の感染が疑われました。
その顕微鏡所見が次の写真
大量の細菌が尿に見られます。
超音波検査やその他の検査の結果から前立腺嚢胞と診断。
手術も検討しましたが、全身状態が非常に悪いため、まずは酢酸オサテロンの投与と、尿の抗生剤感受性試験の結果を踏まえた抗生物質の投与で状態の改善を図り、その後精巣摘出術を行いました。
その後元気や排尿も正常に戻り、前立腺も縮小、元気に回復しています。
若いうちの去勢手術も前立腺の病気の予防には重要と思わました。
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